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大阪地方裁判所 昭和32年(行)53号 判決

原告 堀内政雄

被告 大阪国税局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一、原告「被告が原告に対し昭和三二年四月二日なした原告の昭和二九年度分所得税に関する審査決定中、総所得金額一、二四六、五〇〇円、算出税額金四一五、三〇〇円差引年税額金二九九、一一〇円、過少申告加算税額金一四、九五〇円とする部分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。」

被告「主文同旨」

第二原告の請求原因

一、原告は、丸共運送店なる商号で貨物運送業を営んでいるものであるが、昭和三〇年三月一五日、同二九年度分所得税につき、浪速税務署に対し、(1)所得金額(イ)事業所得なし、(ロ)配当所得金額二〇〇、〇〇〇円、(2)算出税額金七五〇円なる所得税確定申告書を提出した。

原告は、昭和三〇年四月二五日、浪速税務署長が同月一五日付でした原告の昭和二九年度所得に関し、(1)所得金額(イ)事業所得金額一、三五一、〇〇〇円、(ロ)配当所得金額二〇〇、〇〇〇円、合計総所得金額一、五五一、〇〇〇円、(2)算出税額(イ)本税額金四八七、七五〇円、(ロ)過少申告加算税額金二四、三五〇円との所得税更正決定の通知書を受領した。

原告は、右決定に対し、昭和三〇年五月七日浪速税務署長に対し、再調査請求書を提出したが、同署長は同年七月一八日これを棄却するとの決定をなし、原告は、これを同月二六日受領した。

原告は、右棄却決定に対し、同年八月一六日被告大阪国税局長に対し審査請求書を提出したところ、同被告から昭和三二年四月二日付で「再調査決定を全部取消し、当初の決定を一部取消す、(イ)総所得金額を金一、二四六、五〇〇円、(ロ)算出税額を金四一五、三〇〇円、差引年税額を金二九九、一一〇円、(ハ)過少申告加算税額を金一四、九五〇円とする。」旨の審査決定を受け、同決定通知書を同月三日受領した。

二、しかしながら、原告の昭和二九年度中所得は、次に述べるとおりの収入から必要経費その他を控除して算出されるものであつて、原告には所得は皆無であるから、被告の右審査決定のうち原告に所得ありとして所得税を課税している部分は違法である。

(一)  原告の収入

原告が、その事業に使用している車両は、昭和二九年三月まではトラツク三台、オート三輪車二台、馬車三台、肩引二台、同年二月以降オート三輪車一台、同年七月以降オート三輪車二台、同年八月以降大型トラツク一台を各増車し、同年八月一二日馬力一台を減じており、車両不足のときは他の運送業者から傭車をなして営業をしている。

原告の自動車による運送営業は、依頼先の荷物の個数重量には無関係の貸切りであつて、その料金は、物品を運送した走行粁数に応じ、規定の料金表により算出しているものである。

(1) 馬力運送による収入 金七二九、五〇〇円

(2) 肩引運送による収入 金 五五、七〇〇円

(3) 配当所得      金二〇〇、〇〇〇円

(4) 自動車による運賃収入(原告の帳簿により計算したもの)

(イ) トラツク運賃収入(傭車分を含む)  金三、四二九、二七〇円

(ロ) 自動三輪車運賃収入(傭車分を含む) 金  九四五、八八〇円

(傭車運賃収入               金  三五九、二五〇円)

小計                    金四、三七五、一五〇円

合計                    金五、三六〇、三五〇円

(二)  原告の事業に要した必要経費

(1)  厚生費        金   八八、八一五円

(2)  消耗品費       金   一七、九一六円

(3)  修繕費        金  四六六、二二〇円

(4)  火災保険料      金    四、四〇〇円

(5)  通信費        金   六六、七〇〇円

(6)  公租公課       金  一一三、三六〇円

(7)  接待費        金   九六、九五五円

(8)  雑費         金    七、四六〇円

(9)  組合費        金   五一、八九〇円

(10) 手数料金       金   一二、八一五円

(11) 図書費        金   一二、四二五円

(12) 弁償費        金    四、五〇〇円

(13) 雇入費        金二、一二七、一二〇円

(14) 地代         金   一六、三七二円

(15) 外注運賃       金  三四五、二五八円

(16) 水道光熱費      金   三三、八八六円

(17) 仕入         金一、〇一七、七八〇円

(18) 車両備品の減価償却費 金  七七〇、〇二五円

(19) 建物の減価償却費   金   五九、二八三円

合計              金五、三一三、一八〇円

(三)  原告の昭和二九年度分収入金額より控除すべきものは、

(1)生命保険料額金一一、〇〇〇円、(2)扶養控除額金一一六、四〇〇円、(3)基礎控除額金六七、五〇〇円、(4)配当控除額金五〇、〇〇〇円、(5)源泉徴収税額金三〇、〇〇〇円、及び(6)(前記の)必要経費金五、三一三、一八〇円である。

(四)  以上のとおりであるから、前記収入総額から右控除すべき金額を控除すれば、損益計算は欠損となり、原告には課税される所得はなくなり、結局所得税額は皆無のはずである。しかるに被告国税局長は、前記のとおりの審査決定をしたのであるから、右審査決定のうち、請求の趣旨で取消を求めている部分は違法であつて取消さるべきものである。

第三被告の答弁

一、請求原因事実第一項記載事実及び同第二項記載事実中(一)の(1)ないし(3)の各事実、(二)の(1)ないし(16)の各事実、(三)の事実は、いずれもこれを認める。その他の請求原因事実を争う。

二、被告の主張

(一)  所得金額の計算は、正確な帳簿に基いた収入金額から必要経費を控除して行うことが一番望ましいことではあるが、収入金額または必要経費のいずれか一方が帳簿からわからない場合においては、推計によつて計算せざるを得ないのであり、その推計が真実に近い蓋然性をもつ合理的なものである限り違法ではない(所得税法第四五条三項参照)。

ところで、原告の営業に関する備付帳簿には、現金出納簿、売上帳、銀行帳などがあり、帳簿組織としては不充分ながら外見上は所得計算に必要な収支計算書を作成できる程度の一応の記帳はなされており、原告はこれに基ずいて所得金額の申告をなしているが、右各帳簿の内容は、次の如く営業の実体を表わしたものではない。

すなわち(1)現金出納簿は、元来営業に関する日々の金銭の出納をすべて記帳し、残高と手持現金は符合していなければならないのに、原告は出納簿以外の現金の出納が相当にあつて、全然出納の用をなしていない。

(2)原告の帳簿では銀行取引につき昭和二九年一月から一〇月まで協和銀行恵美須支店、同年八月以降三和銀行恵美須支店に当座取引の記載があるだけであるが、実際には記帳以外に別に預金として三和銀行右支店に原告名義の当座取引及び仮空名義の当座取引がある。

(3)また、原告は、協和銀行前記支店、近畿相互銀行日本橋支店、和歌山相互銀行船場支店に月掛預金をしているので、これらに対する掛金の払込、その他原告はその主張のとおり昭和二九年度中に増車をしているので、自動車購入費の支払など相当多額の金銭の簿外出入があるのにかかわらず、これらの記帳が全然なされていない。よつて原告の帳簿を全面的に所得計算の基礎に採用することができない。

(二)  運賃収入の計算について(但し傭車分を除く)

そこで、被告は、原告の運賃収入の計算について、次のとおりの推計方法を採用した。すなわち、原告のガソリン消費量を基礎とし、運輸省が作成した統計資料中「車両走行一粁当りガソリン消費量」により、走行粁数を算出し、これに右統計資料中「一粁当り運賃収入金額」を乗じて運賃収入を算出するという推計方法である。従つて被告のした所得計算の方法には何ら誤りはない。

(1) 原告のガソリン消費量

原告の記帳によるとガソリン仕入金額は金六六六、八三〇円で、その数量は二〇、八八八立であるが、被告の調査によれば、ガソリン仕入金額は、金七八九、八三〇円二四、八八八立である。

(2) 原告のトラツクと自動三輪車とのガソリンの消費割合

ところで、原告は大型トラツク(四屯積)と小型オート三輪車(七五〇瓩積)の双方を使用しているところ、この両車は、前記統計によれば消費ガソリン量が異なるので前記の消費ガソリンをこの両車がどのような割合で消費したかを決定する必要がある。

原告の記載によれば、トラツク運賃収入は、記帳収入額金三、四二九、二七〇円から後記の傭車による収入額金三四八、二八二円を差引いた金三、〇八〇、九八八円であり、またオート三輪車運賃収入は、その記帳収入額金九四五、八八〇円から後記傭車による収入額金二六、五五四円を差引いた金九一九、三二六円である。ところで昭和二九年度運輸省統計資料によると、走行一粁当りの運賃収入の平均は、大型トラツクで金六三円七七銭、自動三輪車で金三二円八七銭であるから、右各車両別の原告記帳収入金額を右各一粁当り平均運賃収入で除すると、トラツクの延走行粁数四八、三一四粁、三輪車の延走行粁数二七、九六八粁となる。次に、同じく右統計によると走行一粁当りガソリン消費量はトラツク〇、三立、オート三輪車〇、一一五立であるから、これに右各走行粁数を乗ずると各車両のガソリン消費量は、トラツク一四、四九四立、オート三輪車三、二一六立となり、その消費割合の百分比は、トラツク八一パーセント、オート三輪車一九パーセントとなる。   (3) そこで、トラツク及びオート三輪車の各消費ガソリンは、前者は総消費量二四、八八八立の八一パーセント、すなわち二〇、一五九立、後者は二四、八八八立の一九パーセント、すなわち四、七二九立となる。これらを前記の各一粁当りガソリン消費量で除せば、前者の延走行粁数は六七、一九六粁となり、後者のそれは四一、一二一粁となるから、これらに前記の各一粁当りの運賃を乗ずれば前者の運賃収入は、金四、二八五、〇八八円となり、後者のそれは金一、三五一、六四七円となるのである。

(三)  雑収入について

原告は、昭和二九年度中に訴外木下運送株式会社に対し、馬糧金二八八、六七〇円を売却し、その代金の大部分を原告名義、または原告の仮名による当座預金に預けいれている。したがつて、右売却収入金二八八、六七〇円の雑収入がある。

原告は、右売買は原告の父がなした旨主張するが、原告は馬力による運送業を営んでいる関係上、馬糧の仕入も原告の事業活動の一部をなしており、馬糧の売却についても、原告は継続反覆して取引を行つているのであるから、原告の事業に属するもので、右取引にたまたま同居の扶養親族である原告の父が従事していたとしても、その取引の利益の帰属者は扶養者であり、かつ、事業主である原告であるといわねばならない。

(四)  傭車による収入について

原告記帳による傭車による支払額は、トラツク分金三一三、四五八円、三輪車分金二三、九〇〇円の合計金三三七、三五八円であるが、通常運送店における傭車収入は一〇パーセント程度の口銭があるものであるから、傭車収入金額は、金三七四、八四一円である。

(五)  以上の各収入金の合計金六、三〇〇、二四六円に、当事者間に争のない収入額(但し、配当収入を除く)金七八五、二〇〇円を加えた金七、〇八五、四四六円が原告の昭和二九年度の事業による総収入金額である。

(六)  次に、必要経費のうち、争のある部分についての被告の主張金額は、次のとおりである。

(1) 仕入金について

仕入金額のうち、原告の記帳には燃料仕入額が金一二三、〇〇〇円脱洩しているので、これも加算して、仕入金額は金一、一四〇、七八〇円となる。

(2) 減価償却費について

原告は、減価償却は税務署に届出た定率法により計算した金額である旨主張するが、原告が定率法の届出をした事実はない。また、定額法から定率法への変更は必ず申請書によつてなさるべき要式行為であつて、口頭による届出がなされても有効な届出にならない(所得税法第一〇条の三第三項)。

したがつて、届出を要しない場合の法定償却方法である定額法(所得税法施行規則第一二条の一四)により計算すべく、車両、備品の減価償却の金額は金四七八、四六六円で、建物の減価償却の金額は金三〇、六〇〇円である。

(七)  以上のとおりであるから、前記事業による総収入金額合計金七、〇八五、四四六円から前記総必要経費金五、一一五、九三八円を控除すると原告の事業所得金額は金一、九六九、五〇八円になり、同人の総所得金額は、これに原告申告の配当所得金二〇〇、〇〇〇円を加算した金二、一六九、五〇八円となり、これが昭和二九年度における原告の総所得である。

ところで、被告は、原告の同年度の所得を右金額より低額である金一、二四六、五〇〇円と認定して審査決定をしたのであるから、被告の右審査決定には何らの違法もないのである。

第四被告の主張に対する原告の答弁

一、原告の備付帳簿の記帳には、営業による収入を漏れなくしてあり正確であるから、原告の収入は、原告の記帳した帳簿によつて計算すべきものである。原告は、三和銀行恵美須支店に原告名義の別口預金があることは認めるが、被告の主張するその他の仮空名義の預金は原告の預金ではなく、原告の父菊造及び中川孝造のものである。

二、運送収入について

被告は、原告の運送収入の計算にあたり、ガソリン仕入金額を金七八九、八三〇円として、運輸省統計資料により運送収入を推計しておるが、被告の計算は失当である。

すなわち、ガソリン仕入量の中には自動車修理に要するものも、荷主との連絡等のために空荷で走る場合に要するものも含んでいるのであるから、仕入量と運送に実際使用した量との間には多量の相違があるはずである。

仮りに、被告の計算方法によるのが正しいとしても、原告のガソリン仕入金額は金六六六、八三〇円であるから、これを基礎として計算すべきものである。

三、雑収入について

原告は、被告の主張するような訴外木下運送株式会社との取引がない。尤も、原告の父菊造が昭和二九年度中に被告主張の金額の馬糧を売却したことはあるが、これは原告の収入と何ら関係はない。

第五証拠〈省略〉

理由

一、当事者間に争のない事実

(1)  原告が、肩書地において丸共運送店なる商号で貨物運送業を営んでおるものであるが、昭和三〇年三月一五日、同二九年度分所得税確定申告書を浪速税務署に提出したところ、同税務署長によつて同三〇年四月一五日付で、原告の同二九年度分所得税更正決定((1)所得金額(イ)事業所得金一、三五一、〇〇〇円、(ロ)配当所得金二〇〇、〇〇〇円合計総所得金額一、五五一、〇〇〇円(2)算出税額、(イ)本税額金四八七、五五〇円、(ロ)過少申告加算税額金二四、三五〇円)を受け、該更正通知書を同二五日受領した。

原告は、右決定に対し、同年五月七日再調査請求をしたが、右税務署長により同年七月一八日「再調査請求を棄却する」との決定を受け、該通知書を同月二六日受領した。

原告は、右棄却決定に対し、被告大阪国税局長に対し、同年八月一六日付で審査請求をなしたところ、被告は、昭和三二年四月二日付で「再調査決定を全部取消し、当初の決定を一部取消す。(イ)総所得金額一、二四六、五〇〇円、(ロ)算出税額四一五、三〇〇円、差引年税額二九九、一一〇円、(ハ)過少申告加算税額一四、九五〇円」なる旨の審査決定をなし、原告は、右決定通知書を同月三日に受領した。

(2)  原告が、運送営業に使用している車輛は、昭和二九年三月まではトラツク三台、オート三輪車二台、馬車三台、肩引二台、同年三月以降オート三輪車一台、同年七月以降オート三輪車二台、同年八月以降大型トラツク一台を各増車し、同年八月一二日馬車一台を減じており、車輛不足の時は他の運送業者から傭車をなして営業していた。

(3)  原告の収入中争のない部分

(イ)  馬力運送による収入   金  七二九、五〇〇円

(ロ)  肩引運送による収入   金   五五、七〇〇円

(ハ)  配当所得        金  二〇〇、〇〇〇円

(4)  原告の経費中争のない部分

(イ)  厚生費         金   八八、八一五円

(ロ)  消耗品等        金   一七、九一六円

(ハ)  修繕費         金  四六六、二二〇円

(ニ)  火災保険料       金    四、四〇〇円

(ホ)  通信費         金   六六、七〇〇円

(ヘ)  公租公課        金  一一三、三六〇円

(ト)  接待費         金   九六、九五五円

(チ)  雑費          金    七、四六〇円

(リ)  組合費         金   五一、八九〇円

(ヌ)  手数料金        金   一二、八一五円

(ル)  図書費         金   一二、四二五円

(ヲ)  弁償費         金    四、五〇〇円

(ワ)  雇入費         金二、一二七、一二〇円

(カ)  地代          金   一六、三七二円

(ヨ)  傭車支払額(外注運賃) 金  三四五、二五八円

(タ)  水道光熱費       金   三三、八八六円

合計                金三、四六六、〇九二円

(5)  所得金額より控除すべきもの

(イ)  生命保険料       金   一一、〇〇〇円

(ロ)  扶養控除額       金  一一六、四〇〇円

(ハ)  基礎控除額       金   六七、五〇〇円

(ニ)  配当控除額       金   五〇、〇〇〇円

(ホ)  源泉徴収税額      金   三〇、〇〇〇円

(6)  運賃料金の算定方法

原告の自動車による運送業の業態は、依頼先の荷物の個数重量に関係のない貸切りであるから、その料金は物件を運送した走行粁数に応じ、規定の料金表により算定している。

二、よつて争のある原告の収入につき判断する。

(1)  原告の備付帳簿の信頼性について

成立に争のない乙第三号証、同第四号証、同第八号証ないし第一三号証、証人金子正の証言により成立を認める乙第六号証、同第七号証に証人小橋秀一、同金子正の各証言を合せ考えれば、原告は営業に関し現金出納簿、仕入帳、売上帳を備付けていたが、原告は右帳簿に記帳されているものゝほかに、当事者間に争のない別口預金として三和銀行恵美須支店に当座取引があるほか、中川孝造なる名義で、右銀行支店に当座取引があり、また原告は、協和銀行恵美須支店、近畿相互銀行日本橋支店、和歌山相互銀行船場支店に月掛預金をしているから、これらに対する掛金の払込み及び受戻しがあり、また前記当事者間に争のないとおり、原告は昭和二九年度中に増車をしているので自動車購入費の支払いなど、相当多額の金銭の簿外出入があることが認められる。してみれば、原告の帳簿は信頼性の薄いものといわなければならない。

従つて、これを原告の収入及び支出認定の資料に採用しなかつた被告の措置は正当である。

(2)  原告の雑収入について

証人金子正の証言により成立を認める乙第一号証と同証人の証言とによれば、原告は昭和二九年中に数回にわたり木下運送株式会社に対し馬糧金二八八、六七〇円を売却しておることが認められる。右認定に反する証拠はない。従つて原告には、右売却収入金二八八、六七〇円の雑収入がある。

(3)  原告の運賃収入について

前記のとおり、原告備付帳簿は、信頼性が薄く、原告の営業の実態を反映しているとは言えないから、その運賃収入については推計により計算せざるをえないことになる。

被告は、原告の運賃収入を、そのガソリン消費量を基礎とし、これに運輸省作成の昭和二九年度一般区域貨物自動車運送事業運賃料金原価計算資料なる統計資料のうち「車輛走行一粁当りガソリン消費量」により車輛の走行粁数を算出し、さらに右統計資料のうち「一粁当り運賃収入」によりその運賃収入を算出したものである、と主張するところ、右の如き資料により、右の如き推計方法を用いることは、運賃収入の推計方法として合理的なものと認められるから、被告が原告の運賃収入に右推計方法を採用したのは適法である。

(イ)  原告のガソリン消費量

原告は、そのガソリン消費量は仕入金額六六六、八三〇円である旨主張するが、成立に争のない乙第三号証、同第四号証に証人安里善六、同金子正の各証言を合せ考えれば、原告の昭和二九年度中に仕入れたガソリンは、右のほかに金一二三、〇〇〇円相当のものがあり、合せて金七八九、八三〇円、その数量二四、八八八立であることが認められ、甲第一号証をもつてしても右認定を覆えすに足らず、他に右認定を左右する証拠はない。

(ロ)  トラツクとオート三輪車の各ガソリン消費量

ところが、原告の運送事業は、トラツクとオート三輪車をもつて営まれておること当事者間に争のないところ、前記統計資料によればトラツクとオート三輪車とでは「走行一粁当りのガソリン消費量」も「一粁当り運賃収入」も異なるので、トラツクとオート三輪車とを分けて運賃収入を推計しなければならず、従つて前記のガソリン消費量をその両者の消費量に按分し、そのおのおのの消費量を算出しなければならない。

原告が、その営業においてトラツクとオート三輪車にいかなる割合でガソリンを消費したかは、全く原告の営業の個性によつて定まるもので、これを推計すべき一般的な基準はないから、これを算定する資料としては、原告の記帳によるほかはない。右記帳が、前記のとおり所得認定のための資料とできない程信頼性のないものであつても、かゝる場合右記帳を右の目的(トラツクとオート三輪車の消費ガソリン量を按分計算する)に採用することは所得推計の過程において必要上やむをえないことであり、原告もまたこれを受忍すべきものと解するのが相当である。

原告の帳簿により計算したトラツク運賃収入(傭車分を含む)が金三、四二九、二七〇円であり、自動三輪車運賃収入(傭車分を含む)が金九四五、八八〇円であることは当事者間に争いがないところ、右各運賃収入の傭車分は後記認定のとおりであるから、トラツク運賃収入は傭車による収入金額三四八、二八六円を差引いて金三、〇八〇、九八四円、オート三輪車運賃収入は傭車による収入金額二六、五五五円を差引いて金九一九、三二五円となる。

そこで、これらの数字を基礎にして前記運輸省統計資料による走行一粁当り運賃収入トラツク金六三円七七銭、オート三輪車金三二円八七銭を適用して延走行粁数を計算すれば、トラツクが四八、三一四粁、オート三輪車が二七、九六八粁となる。次に同じく右統計による走行一粁当りガソリン消費量トラツク〇、三立、オート三輪車〇、一一五立を前記走行粁数に乗ずれば、ガソリン消費量は、トラツク一四、四九四立、オート三輪車三、二一六立となり、その百分比はトラツク八一%、オート三輪車一九%となる計算である。

よつてガソリン総消費量二四、八八八立を右の比率で按分すれば、トラツクの消費量は二〇、一五九立、オート三輪車は四、七二九立となる。

(ハ)  運賃収入の算定

右ガソリン消費量をもとに前記統計資料によつて計算すると、走行粁数は、トラツクが六七、一九六粁、オート三輪車が四一、一二一粁となり、これにより運賃収入を計算すれば、トラツクの運賃収入は金四、二八五、〇八八円、オート三輪車の運賃収入は金一、三五一、六四七円となる。

(4)  傭車による収入について

成立に争のない乙第一一号証に証人小橋秀一の証言を合せ考えれば、原告の傭車による運賃収入は、傭車のための支払いの一〇%が相当であることが認められるところ、昭和二九年度中の原告の記帳による傭車のための支払いがトラツク分金三一三、四五八円、三輪車分金二三、九〇〇円合計金三三七、三五八円であることは原告の明らかに争わないところであるから自白したものと看做すべく、これによつて傭車収入を計算すればトラツク分金三四八、二八六円、三輪車分金二六、五五五円計金三七四、八四一円となる。

三、次に原告の経費のうち争のある部分について判断する。

(1)  仕入金

前記認定のとおり原告主張のものゝほかガソリン仕入金が金一二三、〇〇〇円存在するところ、その余の仕入金が金一、〇一七、七八〇円であることは当事者間に争のないところであるから、仕入金は右の合計金一、一四〇、七八〇円となる。

(2)  減価償却費

本件全証拠をもつてしても、原告が、減価償却を定率法による旨の届出書を税務署長に提出した事実を認めることができないばかりでなく、証人永坂正勇の証言によれば、適式の書面による届出はなかつたことが認められるのである。してみれば、減価償却は、法定償却方法である定額法によるべく、右証人の証言及び弁論の全趣旨によれば、定額法による減価償却は、車輛、備品については金四七八、四六六円、建物については金三〇、六〇〇円となることが認められる。

四、以上のとおり、事業収入金(配当収入を除く)は、前記当事者間に争のない収入金七八五、二〇〇円に前記認定の収入金額の合計金六、三〇〇、二四六円を加えた合計金七、〇八五、四四五円であり、必要経費は前記争のない経費に右認定の経費を加えた合計金五、一一五、九三八円となり、事業収入金額から必要経費金額を控除した金一、九六九、五〇八円が原告の昭和二九年度分事業所得である。

これに当事者間に争のない配当所得金二〇〇、〇〇〇円を加算した金二、一六九、五〇八円が原告の同年度の総所得金額である。被告は、原告の同年度の所得を、これより低い金一、二四六、五〇〇円と認定したのであるから、被告の処分には何ら違法はない。

よつて原告の本訴請求は、理由がなく、棄却すべきものであるから、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 入江菊之助 中平健吉 中川敏男)

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